マイクロSaaSを4本買って合計MRR $120,000。1本は法務通知で止まった買収ロールアップの内訳
ARR $200k〜$600k帯のマイクロSaaSを買い集め、合計MRR $120,000・利益率50%以上を作っているNoosa Labsの記録。買った4本のうち1本は法務通知で営業停止に至っている。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
「作る」ではなく「買う」で事業を持つ人たちがいる。Noosa Labsは初年度に4本のマイクロSaaSを買収し、現在の合計MRRは$120,000。利益率は50%以上と公開されている。
作った事例より数が少なく、失敗まで含めて公開されている買収の記録はさらに珍しい。内訳を読む。
ポートフォリオの構成
| プロダクト | 内容 | 現況 |
|---|---|---|
| WAMessages | WhatsApp向けの個人メッセージ送信Chrome拡張 | 2022年12月、法務通知(cease-and-desist)により営業停止 |
| Sendtric | メール用カウントダウンタイマー | 現存。ポートフォリオ内で最大規模 |
| Evalart | 採用担当者向けのスキル評価プラットフォーム | 現存。売上の1/3が定期課金、2/3が従量課金 |
| Mava.app | AIを使ったサポートプラットフォーム | 現存 |
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 合計MRR | $120,000 |
| 利益率 | 50%以上 |
| 買収対象のARR帯 | $200,000〜$600,000 |
| 初年度の買収本数 | 4本 |
| 売却済み | 2本(金額は非公開) |
| 買い手の経歴 | 技術業界23年・エンジェル投資13年 |
| 目標 | 5〜7年でARR $20M |
買う対象を「ARR $200k〜$600k」に絞る意味
この事例で最も実務的な数字が、買収対象のARR帯である。年商$200,000〜$600,000。
この帯には理由がある。これより小さい事業は、買っても運営の手間に対して見返りが薄い。これより大きい事業は、プライベートエクイティや事業会社が競合として現れ、価格が上がる。個人や小規模チームが自己資金で買える上限と、買う意味がある下限の、その間が$200k〜$600kという範囲になる。
売り手側から見ても同じ帯が見える。中央値付近の事業が、まさにこの買い手の狩り場にあたる。個人開発SaaSを含む売却がどのルートで成立しているかを見ると、この帯は仲介プラットフォームと直接取引が混在する層でもある。
1本目で起きたこと
4本のうちWAMessagesは、2022年12月に法務通知を受けて営業を停止している。WhatsApp向けにメッセージを送るChrome拡張という性質上、プラットフォーム側の規約と正面から衝突した。
これは買収における固有のリスクを示している。買う時点で動いている事業でも、その事業が他社のプラットフォームの上に建っている場合、価値の根拠は自分たちの手の中にない。デューデリジェンスで売上も解約率も確認できるが、「明日プラットフォームが規約を変えないか」は確認できない。
同じ構造の崩れ方は、顧客の広告収益源が規約変更で塞がれて閉鎖に至ったAI記事生成SaaSにも現れている。あちらは作った側、こちらは買った側だが、失うものは同じである。
4本買って1本が消えた。打率としては、これが買収の現実的な水準ということになる。
買ったあとに何をしているか
伸ばし方について公開されているのは、Sendtricのオンボーディング改善による解約率の削減で、前年比20〜30%の改善という数字が出ている。
派手な施策ではない。買収ロールアップの実務は、たいてい既存プロダクトの穴を埋める作業になる。作った本人が手が回らずに放置していた箇所が、買い手にとっての伸びしろになる。MRRがピークから90%落ちたあと、課金する場所を入れ替えて戻したコールドメールSaaSのように、放置された事業には手つかずの改善余地が残っていることが多い。
Evalartの売上構成も興味深い。1/3が定期課金、2/3が従量課金。採用の評価テストという商材は、募集がある月にだけ使われる。定期課金だけで設計すると解約が増えるので、使った分だけ払う形が併存している。
「23年と13年」という前提
見落とせないのが買い手の経歴である。技術業界23年、エンジェル投資13年。買収という手法は、事業の目利きと資金の両方を要求する。
その前提を踏まえると、この事例の再現条件は厳しい。ARR $200k帯の事業でも買収価格は年商の2〜4倍程度になるのが一般的で、自己資金なら数千万円規模の現金が要る。作るより速いが、始めるための元手は作るより大きい。
一方で、掲載事例には3社を買って引き継いだ国内の事例のように、より小さい規模で同じ手法を取っているものもある。手法は同じで、必要な元手だけが桁で変わる。
「2本売却済み」が示すもの
もうひとつ見落とせないのが、4本買ったポートフォリオとは別に2本を売却済みという記述である。金額は非公開だが、買って終わりではなく、出口まで回している。
ロールアップという手法は、買って伸ばして売る、を繰り返すことで成立する。伸ばせなかったものを抱え続けると、管理コストだけが増えていく。買う判断と同じくらい、手放す判断が要る。掲載している売却事例の多くは「作った人が売った」ケースだが、この事例は「買った人が売った」側にあたる。
売却額はいくらが「普通」なのかを掲載事例から集計したコラムで見たとおり、中央値付近の取引は買い手と売り手の双方が繰り返し参加する市場になっている。この事例は、その市場に常時いる側の記録である。
再現の条件と限界
買収型の個人経営の全般に言えるのは、買収は「作る」より不確実性が小さいが、ゼロにはならないという点だ。売上も顧客もある事業を買っても、プラットフォーム依存という外部要因は引き継がれる。4本中1本が消えた事実は、その確率を示している。
もうひとつは、買う帯を先に決めておくこと。ARR $200k〜$600kという範囲は、資金力と手間の両方から導かれた条件で、案件ごとに判断していたら定まらない。
限界も明確である。この記録には各買収の取得価格が一切出ていない。合計MRR $120,000は分かるが、それをいくらで買ったのかが分からなければ、投資として成功しているかは判断できない。売却済みの2本の金額も非公開である。買い手の記録は、売り手の記録より価格が伏せられやすい。目標として掲げるARR $20Mも、5〜7年後の話で検証はできない。
出典
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