売上30円から8年。アプリ3本を並行運営して月20万円に届いた個人開発の記録
2017年に始めた個人開発の売上は5年間ゼロ、6年目に30円、7年目1,000円、8年目4万円、9年目に20万円。転機は1年かけた大型サービスを畳んだ2022年の翌年、5つのルールを決めて作り直したことだった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
個人開発の収益公開記事は、うまくいった年の数字だけを切り出したものが多い。この記事が扱うのは、その反対の記録である。2025年9月にQiitaへ投稿された「個人開発での売上が初任給を超えた話」は、書き手(@nakapon9517)が2017年から積み上げた売上を年別に並べており、そのうち5年間が「¥0」で埋まっている。ゼロが5つ並んだ後に、30円、1,000円、40,000円、200,000円と桁が上がっていく。何がゼロを終わらせたのかが、この事例の中心にある。
年別に並んだ売上
記事の冒頭に置かれているのは、次の表だけである。
| 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥30 | ¥1,000 | ¥40,000 | ¥200,000 |
表そのものに単位の説明はないが、本文では「月の売上は20万円を超え、無事に新卒の頃の給料を超えることができました」と書かれている。つまり右端の20万円は月額であり、記事のタイトルにある「初任給を超えた」はこの月商を指す。伸び方は毎年おおむね一桁ずつで、2022年から2025年までの3年間で約6,600倍になった計算になる。ただし出発点が30円なので、倍率にはほとんど意味がない。読むべきは、ゼロが5年続いた後に30円が出たという事実のほうだ。
年別売上の推移(2017→2025)
8年で何をしていたか
| 時期 | 起きたこと |
|---|---|
| 2017年 | 同期に誘われてハッカソンに出場。業務時間外でReact Nativeを触り始める |
| 2018年 | 環境構築・ドメイン取得・リリースのいずれもできず。GitHub Pagesで初公開 |
| 2019年 | 社会人3年目で会社員を辞めて独立。大阪から東京へ。業務委託でReact Nativeを本業に |
| 2020〜2021年 | アプリを複数リリースするも「全く伸びません」。自分が作ったアプリを自分も使わなくなる |
| 2022年 | 全機能入りの大型サービスを1年かけて開発・リリース。後にクローズ |
| 2023年〜 | ルールを決め直して「ボスク」をリリース。1ヶ月ほどでストアの数字が動き出す |
| 2025年 | 月商20万円。雑誌掲載。フィットネス領域へ軸足を移す |
現在運営しているのは3本。ボウリングのスコア管理アプリ「ボスク」(iOS/Android)、筋トレやダイエット中のユーザーが交流する「シェアトレ」(iOS/Android)、月間の歩行・走行距離をランキングで見る「Gazzy」(iOS)である。2024年には沖縄へ移住している。
潮目が変わったのは、失敗を1年分やり切った直後だった
転機は2022年から2023年にかけての切り替えにある。2022年、書き手はTwitterのDM・LINEのオープンチャット・Slackなど複数の会話手段を1本に束ねる「全ての機能が入ってるサービス」の開発に着手した。開発期間は約1年。リリースまでこぎつけ、自分でも運用を始めたが、そこで初めて気づいたことがある。「自分でLINEと同じようなサービスを作って、保守運用するってめちゃくちゃ大変」であり、競合の機能追従、膨大なデータの保存、漏洩を防ぐリスク管理が常時のしかかる。そのうえ「SNSでの収益化の難しさも考えていなかったため売り上げが全く立ちません」。モチベーションが尽き、サービスはクローズされた。
翌2023年、書き手は次の5つを決めてから手を動かしている。
- 自分が使うサービスを作る
- まずは必要最小限の機能のみ開発する
- 初回リリースは1ヶ月以内。未完成でもリリースする
- 収益は広告に依存せずサブスクメインとする
- 事前に市場や競合の調査を行う
このルールで出したのがボスクだった。リリースから1ヶ月ほどで、ストアのインプレッションとインストール数が伸びていることに気づいたと書かれている。売上で言えば、1,000円だった2023年から40,000円の2024年へ、そして20万円の2025年へと続く区間の起点がここにある。
なぜこの5行が効いたのか
5つのルールは、そのまま2022年の失敗の裏返しになっている。「1年かけた」の逆が「1ヶ月以内にリリース」であり、「全機能入り」の逆が「必要最小限」であり、「SNSで収益化を考えていなかった」の逆が「サブスクメイン」である。効いたのは根性でも新技術でもなく、失敗の原因を一つずつ反転させた点にある。5年のゼロを終わらせたのは、1年がかりの失敗を裏返した5行だった。
構造で見ると三つある。開発期間を1ヶ月に切ったことで、市場の反応を確かめる回数が単純に増えた。1年サイクルでは検証は1回しかできない。収益を広告からサブスクに移したことで、必要なユーザー数の桁が下がった。広告収益はユーザー数にほぼ比例するため、SNS的なサービスで採算に乗せるには大量の在庫が要る。サブスクは少数の継続ユーザーで成立する。事前の市場・競合調査を工程に組み込んだことで、「自分が欲しいものだが自分も使わなくなる」という2020〜2021年の症状に事前のフィルタがかかった。
その後の打ち手は、当たった1本を徹底的に磨く方向に集中している。ASOはアプリ名・説明文・キーワードの改善に加えてスクリーンショットのA/Bテストまで、課金面は課金対象機能の開発と課金画面のA/Bテスト、体験面は起動速度やページ遷移の高速化、オフライン対応、SentryやCrashlyticsによるエラーの早期発見、機種変更に備えたソーシャルログイン、そして日本語と英語を含む9ヶ国語対応。最初からアメリカでの普及を目的に設計し、DBのリージョンもアメリカに置いている。ボウリングという競技人口の限られたテーマで月20万円に届いた背景には、この「最初から海外を数に入れる」設計がある。
効かなかった打ち手も併記されている
同じリストには、費用対効果が明らかに悪かったものも並ぶ。著名人やYouTuberへのコラボ依頼は「20〜30人に連絡して返信1件」。使ってくれそうなユーザーへのDMは「累計200〜300名には送ったはず?」という規模で、返信率に関する記述はない。Apple Search Ads・Google広告・Yahoo・X広告といった有料広告、Applishow・Approom・SeekUpsへのプレスリリース、TikTok・Instagram・Facebook・Redditでの集客、GeminiハッカソンやRevenueCatのハッカソン、Product Huntへの出場も同列に並んでいるが、どれが売上に効いたかの内訳は開示されていない。
書き手自身の総括は身も蓋もない。「残念なことに僕の個人開発では一度も大きなラッキーは起きませんでした」。編集部の読みもこの自己評価と一致する。バズや大型メディア掲載が一気に数字を変えたのではなく、数十の施策を並行して回した結果として年ごとの桁が上がった。これは運の記録というより、当たりが出るまで打席の数を減らさなかった設計の記録だ。
この事例のどこが真似でき、どこが真似できないか
再現しやすいのは方法論の側だ。1ヶ月でリリースする、機能を削る、広告ではなく課金を前提に設計する、競合のストアレビューを集めて分析する。これらは元手をほとんど必要としない。売上ゼロの5年間に習得したリリース手順やASOの知識も、今なら当時より短期間で学べる。
一方で条件面には引き算が必要である。書き手は2019年から業務委託でReact Nativeを本業として扱っており、クロスプラットフォーム開発の実務スキルを仕事で獲得したうえで個人開発に流用している。開発費が実質ゼロなのはそのためだ。また、8年という時間そのものが最大の投入資源であり、その間の生活は独立後の受託や業務委託が支えている。9ヶ国語対応や米国リージョンでの運用も、英語圏のストア審査・レビュー対応を一人で回せる前提に立つ。
数字の絶対値についても注意がいる。月20万円は「新卒の初任給」水準であり、アプリ3本を8年運営した到達点としては決して大きくない。この記事の価値は金額ではなく、ゼロが5年続いても止めなかった場合に何が起きるかという時間軸の記録にある。書き手が「個人開発以外の人生を満たすための手段」として位置づけている点も、金額の小ささと矛盾しない。
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