ScreenshotOne、月$32Kで成長が止まった。解約率9%が作る「数学的な天井」を創業者が公開した
ウクライナ出身のDmytro Krasun氏が2022年に一人で公開したスクリーンショットAPIは、4年でMRR $32K・有料1,000件超に達した——そして止まった。月間解約率9%が作る「Max MRR=新規MRR÷解約率」という天井の実例を、公開された数字で読む。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
成長SaaSの記事は「どうやって伸びたか」を語る。この記事は逆で、どこで止まるかが数式で決まっていた事例である。
ScreenshotOneは、URLを渡すとそのページのスクリーンショット画像を返す開発者向けAPIだ。OGP画像の自動生成、Webページのアーカイブ、モニタリング。用途は幅広い。ウクライナ出身のDmytro Krasun氏が、10年のサーバーサイド経験を経て2022年5月に一人で公開した。
4年間の成長と、最後の1年
| 時点 | 状態 |
|---|---|
| 2022年5月 | 公開 |
| 2022年6月 | 最初の有料顧客(公開1ヶ月) |
| 2022年10月 | $1K MRR |
| 2024年9月 | $10K MRR |
| 2025年6月 | $20K MRR |
| 2026年7月 | $32K MRR・有料顧客1,000件超 |
累計のAPI処理は1億リクエスト超。従業員はゼロで、外部調達もない。$1Kから$10Kまでに2年かかっており、本人も「長く遅い成長も有効だ」と繰り返し語ってきた。コミュニティ(Reddit、Indie Hackers)を主戦場に、開発者向けドキュメントの充実とXでの公開経営(build in public)で積み上げた、教科書的なスロースタートである。
なお、時期の刻みは出典によって多少ぶれがある。本人が出演したポッドキャストでは「$10Kまで4年」という言い回しも登場するが、これは達成の定義(単月か、安定して超えたか)の取り方の差とみられる。本記事の表は2026年7月のケーススタディに記載された時系列を採用し、本人の個人サイトに並ぶ各時点のインタビュー($10K→$12K→$20K→$25K)と整合することを確認した。
問題は2026年に入ってからだ。新規は毎月入ってくるのに、MRRが$32K前後から動かなくなった。
Max MRR = 新規MRR ÷ 解約率
2026年7月のケーススタディが公開した内訳は簡潔だ。毎月の新規MRRは約$3,000。そして月間解約率は9%。この2つの数字だけで、事業の上限が決まってしまう。
毎月、既存MRRの9%が消える。新規で足せるのは$3,000。つまりMRRがXに達すると、X×9%が毎月消える量になり、$3,000 ÷ 9% ≒ $33Kでプラスマイナスがゼロになる。ScreenshotOneの$32Kという現在地は、成長の途中ではなく、この数式の解にほぼ一致している。どれだけ新機能を出しても、この2変数が変わらない限りグラフは水平のままだ。
解約率9%はSaaSとしては高い。だが原因は製品の品質ではない。スクリーンショットAPIという用途そのものが「一時的」だからである。ローンチ用のOGP画像を作り終えたら、スクレイピングのプロジェクトが終わったら、顧客はきれいに満足して解約していく。1,000件を超える顧客を4年集め続けても、「高い継続率で使い続ける市場の一角」がまだ見つかっていない。ケーススタディはそう総括している。
編集部の見立てを付け加えるなら、この天井を上げる経路は理屈の上で3つある。①解約率を下げる:サイト監視やアーカイブのような「終わらない用途」の顧客層を厚くする、年契約へ誘導する②新規を増やす:$3,000/月の新規流入を倍にすれば、同じ解約率でも天井は$66Kに動く③単価を上げる:同じ顧客数でも分子が変わる。どれも言うのは簡単で、4年やってきた本人が一番試してきたはずの選択肢でもある。数式の恐ろしさは、「どれかを構造的に変えない限り、努力の量が天井を動かさない」ことを示してしまう点にある。
効かなかった施策
Krasun氏は失敗した打ち手も公開している。PMF(プロダクトマーケットフィット)前に出したGoogle検索広告は機能しなかった。連携先候補への営業メール(コールドアウトリーチ)は成約ゼロ。効いたのはコミュニティでの継続的な露出と、検索から拾われるドキュメント・技術記事だけだった。開発者向けツールでは、広告よりも「困ったときに検索して見つかる」導線のほうが強い、という順序がここでも確認できる。
止まった数字を公開するということ
もうひとつ特筆すべきは、この「止まっている」という事実が、本人の協力のもとで公開されている点だ。build in publicは伸びている間は宣伝として機能するが、停滞期に続けるのは別の胆力がいる。Krasun氏は成長期のMRRを節目ごとにインタビューで公開してきた延長で、天井に当たった構造の分析まで外部のケーススタディに開いた。読者にとっては、成功譚100本より情報量の多い1本である。毎月$3,000の新規が入り続けている以上、製品が見放されたわけではない。止まっているのは製品ではなく、構造のほうだ。
それでも損益は悪くない
天井に張り付いた状態でも、月$32Kの売上に対して推定利益は$25K〜30K。一人で運営する事業としては十分すぎる水準で、ソロ・副業事例の月商分布に置けば上位に入る。さらに言えば、成長が止まったSaaSにも売却という出口はある。4年分の運用実績と1,000件の顧客基盤は、成長曲線が水平でも値の付く資産である。「止まった」ことと「失敗した」ことは別である。ここがこの事例のもうひとつの読みどころだ。成長が止まった事業を、悲観して畳むか、キャッシュフロー資産として保有するか、年額プランの見せ方だけで停滞を破ったData Fetcherのように構造をいじって再挑戦するか。選択肢は数式が示すよりも多い。
再現の条件と限界
この事例から持ち帰るべきは、MRRの上限は売上が小さいうちから計算できるという事実だ。新規MRRと解約率が数ヶ月分あれば、自分の事業が最終的にどこで水平になるかは掛け算で見える。用途が一時的なプロダクト(変換ツール、生成ツール、単発プロジェクト向けAPI)は、どれだけ質を上げても解約率の下限が高止まりする。天井を上げる方法は原理的に2つしかない。継続利用される用途・顧客層を見つけて解約率を下げるか、新規の流入量そのものを桁で増やすかだ。8ヶ月$0から$10K MRRに届いたBannerbearも同じAPIビジネスだが、定常的なマーケティング業務に食い込むことで継続利用を作った点が分かれ目になっている。
出典
- 報道Superframeworksによるケーススタディ「$32K MRR and Stuck」(2026年7月25日)
- 本人公開創業者Dmytro Krasun氏へのインタビュー(Startup Founder Stories)
- 本人公開Dmytro Krasun氏の個人サイト(出演インタビュー・数字の一覧)
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