azu、OSS活動のスポンサー収入が年229万円。textlintとJSer.info、14年の継続が「寄付で回る個人開発」を作った
文章校正ツールtextlintや14年続くJSer.infoで知られるazu氏は、OSS活動の収支を毎年公開している。2025年のGitHub Sponsors収入は約229万円(月16〜36.6万円)。売り物を持たず、寄付だけで月商水準の収入を成立させた希少な実例だ。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
ソフトウェアを無料で配り、対価を求めず、それでも年229万円が入ってくる。OSS開発者azu氏の2025年の収支である。文章校正ツールのtextlint、14年間毎週更新を続けるJavaScript情報サイトJSer.info、書籍として無償公開されるJavaScript Primer。いずれも無料で、収入源はGitHub Sponsorsの月額スポンサーと寄付だ。本人が毎年大晦日に公開する「オープンソース活動の振り返り」に、月別の実額まで載っている。
商品がなく、価格がなく、顧客もいない。それでも継続的な収入があり、その数字が7年分公開されている。寄付型の個人開発がどこまで成立するかを測る、国内で最も透明な定点観測である。
なお金額の規模感を先に置いておくと、年229万円は月平均19万円。「OSSでは食えない」と「OSSは金にならない」の間に、実際にはこのくらいの帯がある。
数字の整理
| 項目 | 数値(出典時点) |
|---|---|
| GitHub Sponsors開始 | 2019年10月 |
| 2025年のSponsors収入 | 約229万円 |
| 月別レンジ | 約16万〜36.6万円 |
| 1月の上振れ | Thanks OSS Award(トヨクモ)による |
| 継続スポンサー | 約50 |
| JavaScript Primer側 | Open Collectiveで年約68万円(貢献者へ分配) |
| JSer.info | 14年間・毎週更新 |
| 2025年のGitHub contributions | 11,082 |
寄付は「成果」ではなく「継続」に付く
月16〜17万円という基礎水準は、何か1つのプロダクトの対価ではない。textlintのユーザー企業、JSer.infoの読者、JavaScript Primerで学んだ開発者。受益者の集合が、個人と企業のスポンサー約50件として積み重なった結果だ。
構造として重要なのは、寄付が単発の成果ではなく継続の実績に付くことだ。JSer.infoの14年・毎週更新という履歴は、「この人への支援は無駄にならない」という予測可能性そのものである。スポンサーシップは前払いの信頼であり、信頼の担保は過去の継続しかない。バズった月に寄付が跳ねる構造ではなく、やめない人に少しずつ集まる構造。収入のグラフが2019年から緩やかな右肩上がりを描いているのは、この性質の反映だ。
一方で変動要因も記録されている。2025年1月の36.6万円はThanks OSS Award(企業がOSSに賞金を出す取り組み)による上振れで、12月の増加はスポンサーのアカウント移行によるものだと本人が注記している。数字の凸凹の理由まで注記する几帳面さ自体が、この定点観測の資料価値を支えている。企業スポンサー1件の増減が月数万円を動かす規模感であり、収入の分散は見た目より薄い。
「支援される仕組み」も設計されている
azu氏の事例を「人徳の話」で終わらせると、再現可能な部分を見落とす。支援の受け皿は明確に設計されている。GitHub Sponsorsの階層設定、支援の使途の説明、そして年次の収支公開そのものが、スポンサー側の稟議を通しやすくする情報開示になっている。JavaScript Primerでは、Open Collectiveの資金から貢献者に費用を分配するポリシーを定め、年約68万円を配っている。個人が受け取るだけでなく、プロジェクトとして資金を流す仕組みまで作っている。
これは寄付型の「経営」である。無料で配る活動にも、収入の透明性・使途の説明・貢献の分配という経営実務があり、それを丁寧にやる人に寄付が集まる。
2025年の活動内容も、スポンサーの動機を考える材料になる。textlintはAIエージェントから直接呼び出せるMCPサーバー対応を入れ、secretlintはAPIキー漏洩の検出ルールを拡充し、JSer.infoもAIからの参照経路を整えた。企業がAIコーディングに依存するほど、その足元のリンター・セキュリティツール・情報源の保守は「タダで享受している重要インフラ」として可視化される。OSSスポンサーシップは善意の寄付から、サプライチェーンの保守費用へと性格を変えつつあり、azu氏の収入曲線はその変化の国内観測点でもある。OSSを本業の隣で続ける形は、labelmakeの開発をOSS化して外部の貢献でコードを半減させた事例とも響き合う。
リスクと限界
収入の脆さは本人が最もよく開示している。スポンサー収入は解約で即座に減る上、その相当部分が国内企業の支援制度やAwardという「制度もの」に依存する。企業の景気や方針が変われば、月数万円単位で動く。また年229万円は、単体で生活を支える金額として読むべきではなく、他の収入と組み合わさった上での「活動の持続可能性を高める収入」と位置づけるのが正確だ。
なお、この事例は通常の掲載基準(事業として継続的に行われているもの)の境界線上にある。営利事業ではないが、6年続く継続的な収入と7年分の公開実績があり、「個人の技術活動がどう収益化しうるか」の参照点として掲載した。
再現の条件と限界
持ち帰れるのは、①寄付・スポンサー収入は成果ではなく継続年数に比例する。始めてから数年は数字を期待しない、②収支の公開と使途の説明が、企業スポンサーの意思決定コストを下げる、③受け皿(Sponsors階層・Open Collective)の整備は寄付の前提条件、④自分の道具や情報源を企業が業務で使っている状態を作れれば、支援は「善意」から「必要経費」に変わる、の4点だ。
限界は明確で、14年の毎週更新と1万超の年間contributions(1日あたり約30)という投入量は、収入229万円に対して時給換算の成立する水準ではない。これは労働の対価ではなく、無料で配る活動の持続費用である。その割り切りができる人にだけ、この型は開かれている。個人開発の収益モデル比較はPomofocus(無料+広告)、Inkdrop(有料サブスク一本)と並べて読むと構造の違いが立つ。
出典
- 本人公開azu氏「オープンソース活動の振り返り @ 2025」(GitHub Sponsors収入の月別実額)
- 本人公開同「オープンソース活動の振り返り @ 2024」(毎年公開している定点シリーズ)
- 本人公開azu氏のZenn記事(スポンサー収入と支援の仕組みについての解説)
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