事例 撤退

β版初日に1,000人、そこから落ちるだけ。19ヶ月かけた作り直しで終わったSEOツール

個人ブロガー向けSEOツール「Tracky」が終わるまでの記録。β版公開初日に約1,000人が来たあとアクセスは落ち続け、次のバージョンに19ヶ月をかけた末に立ち上がらなかった。

執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)

β版初日に1,000人、そこから落ちるだけ。19ヶ月かけた作り直しで終わったSEOツール

自分の書いた記事を競合と比較し、文字数やキーワードの改善点を出すSEOツールを、個人開発者が約2年かけて作り、畳んだ。β版を出した初日には約1,000人が訪れている。始まりの数字としては悪くない。そこから何が起きたのかを、開発者本人の振り返りから追う。

時系列

時期出来事
2021年末構想開始
2022年3月β版リリース。初日に約1,000人がアクセス
2022年3月以降「みるみる間にアクセスは落ちていく」
2023年10月次のバージョンをリリース
その後立ち上がらず終了

構想から初期リリースまで約3ヶ月。ここは速い。問題はその次で、次のバージョンが出るまでに19ヶ月かかっている。初期リリースの6倍以上の時間である。

初日1,000人が意味していたもの

β版公開初日に1,000人という数字は、告知が届いたことを示している。個人ブロガーとSEOコンサルタントという想定ターゲットに、少なくとも一度はリーチできた。

そのあとアクセスは落ち続けた。開発者はこれを、継続的な集客導線が存在しなかったためだと整理している。初日の1,000人は、公開という一度きりのイベントが生んだ数字で、そのあと人を連れてくる仕組みは何も置かれていなかった。

SEOツールを作りながら、自分の集客をSEOで設計していない。この非対称は、この事例の性格をよく表している。競合と比較して改善点を出すという機能は、まさに自分のサービスに向けて使えるものだった。

19ヶ月を使い切った3つの分岐

次のバージョンに19ヶ月かかった理由も、本人が具体的に書いている。

技術スタックを途中で変えた。DjangoからNuxt.jsへ移行し、新しい言語・フレームワークの習得コストが発生した。

機能の方向を変えた。開発の途中で「順位トラッキング機能は本当に必要か」と疑い、AIによる自動生成機能へと軸を移した。

長期化してやる気が落ちた。期限の圧力がなくなり、飽きが生じたと本人が書いている。

この3つは独立した事象ではなく、連鎖している。ユーザーがいないから締切がなく、締切がないから作り直せてしまい、作り直すから完成が遠のく。アクセスが落ちたあとに19ヶ月の開発期間が生まれたこと自体が、初日以降のフィードバックの不在を示している。

同じ形の停止は、Swiftで着手して4日でFlutterに全面移行し、17日目に止まったゲームアプリにも記録されている。規模も期間も違うが、作り直しは常に「いま反応が返ってこない」ときに起きる。

使わないものを作っていた

3つ目の失敗理由として本人が挙げているのが、自分自身がSEO領域に詳しくなく、実際に使い続けたいと思えるツールになっていなかったという点である。

これは題材選びの問題として片づけられがちだが、実務的にはもっと直接的な影響がある。自分が使わないツールは、改善の優先順位を自分で決められない。次に何を作るべきかの判断が、想像に頼ることになる。ユーザーからのフィードバックも来ていないので、判断材料がどこにもない状態で19ヶ月が過ぎた。

対照的に、5年で失敗8本・成功3本を並べ、当たった3件がいずれも「自分にしか書けない/自分が使っている」領域だった事例では、題材と本人の経験が重なっている側だけが数字になっている。

3ヶ月と19ヶ月の非対称

この事例でいちばん示唆的なのは、開発期間の配分である。

構想から初期リリースまでが約3ヶ月。次のバージョンまでが約19ヶ月。同じ人が同じサービスを作っているのに、後半は6倍以上かかっている。

前半が速かったのは、締切があったからだ。「まず出す」という目標が明確で、判断の基準が「リリースできるか」の一点に絞られていた。

後半が遅くなったのは、その基準が消えたからである。ユーザーがいないので優先順位を決める外部の声がない。すると「もっと良い作りにしたい」「この機能は要らないのでは」という内側の声だけが判断材料になる。技術スタックの変更も、機能の方向転換も、どちらも「より良くしよう」とした結果であって、手を抜いた結果ではない。

個人開発で作り直しが起きるのは、たいてい怠けているときではなく、反応がないときである。反応がないから、次に何を直せばいいか分からない。分からないから、土台から作り替えたくなる。そして作り替えている間は、進んでいる感覚が得られる。

掲載事例と並べる

Trackyには、そこに置く数字がない。売上に関する記述は本文に一切登場せず、有料プランがどこまで実装されたのかも明示されていない。

この「数字がない」という状態こそが、この事例の記録内容である。初日のアクセス1,000人だけが唯一の定量的な成果で、そのあと2年間、測る対象が生まれなかった。撤退の判断に使える指標が存在しないまま、開発だけが続いた。

再現の条件と限界

この失敗が残した教訓は、公開初日の数字を「需要の証明」と読まないという一点である。初日に1,000人来るのは、告知が機能した証拠であって、継続して使われる証拠ではない。翌週・翌月に何人残ったかが分かる形にしておかないと、その後の判断材料がなくなる。

もう一点は、技術スタックの変更と機能の方向転換を同時にやらないこと。どちらか一方なら数週間で済むことが、同時に起きると完成の見通しそのものが立たなくなる。

3つ目として、19ヶ月かける前に、初日の1,000人へ聞きに行く手があった。初日に来た人のうち何人かは、想定ターゲットそのものである。その時点でメールアドレスを預かるか、感想を求める導線を置いていれば、次に何を作るかの材料になり得た。技術スタックを入れ替える19ヶ月より、その工程のほうが短い。

限界として、この記録にはユーザー数・売上・費用のいずれも数字がない。初日1,000アクセス以外は「みるみる落ちた」という記述にとどまる。どの時点で何人残っていたか、有料課金がいくら発生したかが分かれば、撤退の判断がどこで可能だったかを検証できたはずだが、そこは公開されていない。測っていなかったから公開できない、という順序である可能性も高い。

出典

本記事は上記の公開情報の要約と独自分析です。 詳細は必ず出典をご確認ください。
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