ヒット作ゼロで68本・累計200万DL。10年続けた個人アプリ開発の内訳
10年間で68本のアプリを出し、累計200万ダウンロードに到達した個人開発者の記録。ヒット作と呼べるものは1本もないまま、月の収入は東京都の平均給与をやや上回る水準に達している。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
10年間、終業後と土日にアプリを作り続けた開発者がいる。出したアプリは68本、累計ダウンロード数は200万。それでも本人は「ヒット作が出ないまま」と書いている。
ヒット作なしで200万ダウンロードに届くとはどういう積み方なのか。公開されている内訳を読む。
68本の構成
| 区分 | 本数 |
|---|---|
| iOS(ツール系) | 39本 |
| Android(ツール系) | 1本 |
| ゲーム | 29本 |
| 合計 | 68本 |
主戦場は「写真/ビデオ」カテゴリのツール系と、Unityで作るカジュアルゲームである。10年で68本なら、平均して年に約7本、2ヶ月に1本強のペースになる。本業を持ちながらこの頻度を10年維持したこと自体が、この記録のいちばん再現しにくい部分かもしれない。ツール系とゲームの比率はおよそ1対1、iOSとAndroidの比率はおよそ4対1。プラットフォームを絞り、カテゴリも絞って、本数だけを増やしている。
ダウンロードの積み上がり方
| 期間 | 累計ダウンロード |
|---|---|
| 最初の9年 | 100万 |
| 2021年の1年間 | 100万 |
| 合計 | 200万 |
これが最も特徴的な数字である。10年で200万のうち、半分は最後の1年で積んでいる。9年かけて100万、次の1年でもう100万。
単純な線形の積み上げではない。9年ぶんの試行のあとに、ダウンロードの伸び方が一段変わった局面がある。2020年リリース分が30万、2019年リリース分が40万という数字も公開されており、後期のアプリほど1本あたりの獲得が大きくなっていることが分かる。
一方で、最も多いアプリでも10万ダウンロード超にとどまる。本人はこれを「ヒット作と呼べるには程遠い」と評している。68本の平均は約2.9万ダウンロード。突出した1本ではなく、束が数字を作っている。
収入は「東京都の平均給与より多少高い」
金額について、本人は具体的な数値を出していない。書かれているのは、月の売上が「東京都の平均給与より多少高いぐらい」という表現だけである。
推計で数字を埋めないので、ここは金額非公開として扱う。ただし、この表現が示す位置づけは重要だ。副業として始めた個人開発が、給与所得の水準を超えている。しかもヒット作は1本もない。
この事例はそこには届いていない可能性が高いが、14年続けて月100万円に到達した個人開発者や、3本のアプリで月20万円規模を作った事例と同じ棚に並ぶ水準である。
「マーケティング過剰が失敗を招いた」という自己評価
10年でヒットが出なかった理由として、本人が挙げているのは意外な一言である。「マーケティング過剰が失敗を招いた」。
作るより先に、どう売るかを考えすぎたという意味に読める。カテゴリを絞り、ストアで見つけられやすい題材を選び、本数を増やす。この戦略は獲得効率としては合理的で、実際に200万ダウンロードを生んでいる。ただし、その最適化は「そこそこ当たるもの」を量産する方向に働き、突き抜ける1本からは遠ざかる。
ヒットは、狙って外れる領域に賭けたときに出やすい。効率を優先すれば、期待値の分散が下がる。68本の最大が10万ダウンロードで止まっているのは、その帰結として説明がつく。
同じ構造は、13本のゲームを出して広告収益を積んだ事例や、広告単価の低下とともにダウンロードも収益も右肩下がりになった事例と並べると見えやすい。数を積む戦略は、プラットフォーム側の条件が変わったときに全体が同時に影響を受ける。
68本を抱えるということ
数を積む戦略には、公開されていないコストがある。68本は、68本ぶんの保守対象でもある。
iOSとAndroidはどちらも年に一度OSを更新し、審査基準やSDKの要件を変える。広告SDKの仕様変更も定期的に来る。1本あたりの対応が仮に数時間でも、68本なら数百時間になる。新作を作る時間と、既存を生かし続ける時間が、年々競合していく。
本人が「終業後や土日」と書いていることを踏まえると、10年目の作業時間の相当部分は、新規開発ではなく維持に向かっていた可能性がある。この記録には保守にかけた時間の数字が出てこないが、68本という規模を10年維持したこと自体が、それなりの負荷を示している。
そしてこの構造は、収益源が広告である以上、外部要因に一括で晒される。単価が下がれば68本すべてが同時に影響を受け、審査基準が変われば68本すべてを点検することになる。分散して見えて、実は1つのプラットフォームに全部乗っている。
再現の条件と限界
他の開発者にも開かれているのは、ヒットがなくても本数で成立させる道はあるという事実だ。68本・10年という規模が必要になるが、1本あたり平均2.9万ダウンロードでも、束ねれば給与水準を超える。個人開発を「1本の当たりを引くゲーム」としてだけ捉える必要はない。
もう一点は、継続が最大の変数になっていること。最初の9年で100万、次の1年で100万という配分は、後半になるほど1本あたりの効率が上がったことを示す。作り方も、題材の選び方も、ストアでの見つけられ方も、試行回数とともに改善している。10年目に得たものは、10年目に作ったアプリではなく、10年ぶんの作り方だった。
まねのしようがないのは、10年という時間そのものである。9年かけて100万、次の1年で100万という配分は、結果を見たあとだから語れる形をしている。9年目の時点でこの人が「あと1年で倍になる」と知る方法はなかった。続けた理由が確信だったのか惰性だったのかは、この記録からは分からない。
限界として、この記録は金額が公開されていない。「東京都の平均給与より多少高い」という表現があるだけで、月額も年額も累計も分からない。またダウンロード数と収益の関係も示されていないため、200万ダウンロードがいくらに変換されたのかは読み取れない。ダウンロード数は公開しやすく、金額は公開しにくいという個人開発の記録全般の傾向が、この事例にも表れている。
出典
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