潰れたサービスのドメインを買って作り直す。初期投資$4,000・約30本で月$15,000
既存の検索需要が残っている「死んだサービス」のドメインを買い、同じ期待に応えるものを作り直す。約30本で月$15,000、うち1本が7割を占める。初期投資は合計$4,000。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
新しいものを作って人を集める、の逆をやっている人がいる。すでに人が探しているのに、探し先がなくなっている場所を見つけ、そこに作り直す。Erik Aronesty氏がIndie Hackersで公開した手法である。
エンジニア歴30年。約30本のプロジェクトから月$15,000を得ている。ここまでにかけた初期投資は合計$4,000。
内訳:1本で7割
| プロジェクト | 収益シェア | 内容 |
|---|---|---|
| OnwardTravel | 約70% | 航空会社のPNR(予約記録)を押さえ、検証可能な旅程を発行する |
| DirtSignal | 約20% | 全米約200の自治体の建築・条例違反ポータルと審判記録をスクレイピングし、データ提供 |
| PrismClip | 収益なし | 本人いわく「趣味的なもの」 |
| その他の長い尾 | 約10% | 月$60程度のものも含む |
月$15,000という総額は、30本の均等な積み上げではない。1本で7割、上位2本で9割。残り約28本で1割、そのうちには月$60しか生まないものもある、と本人が明示している。
この形は、買収した4本のマイクロSaaSで合計MRR $120,000を作っているNoosa Labsや、アプリを量産するポートフォリオ型の事例と同じ分布を示す。本数は打率のためにあり、金額は上位数本が作る。
なおDirtSignalについては「2〜3か月でOnwardTravelを抜く」と本人が述べているが、これは予測であって実績ではない。
なぜ「死んだドメイン」なのか
手順はこうだ。すでに畳まれたサービスのうち、検索需要とリンクが残っているドメインを探し、買い、かつて訪問者が期待していたものを作り直す。
得られるのは、検索エンジンから見た被リンクと評価の履歴である。ゼロから立てたドメインが半年から数年かけて積むものが、購入時点で付いてくる。本人が広告をほとんど打っていないのは、この前提があるからだ。
ただし本人は同時に警告を出している。訪問者の期待と違うものを置くと、Googleは順位を落とす。ドメインを買うことは検索評価を買うことではなく、「その評価を維持できる中身を作る義務を買う」ことに近い。ここを外すと、払った金額がそのまま損失になる。
ドメインそのものの価値については、本メディアにも訪問数10倍の競合が、それでもHoneymoons.comを買った事例や、ドメイン代$304で始めて2年後に$115,000で売った事例がある。名前と履歴に値段が付くこと自体は珍しくない。Aronesty氏の手法が違うのは、転売ではなく事業の初速に使っている点である。
内訳のある$4,000
- 期限切れドメインの買い付け: 約$2,000
- AIツール・ホスティング・アウトリーチ: 約$2,000
30本を回して月$15,000を作る事業の初期投資が総額$4,000、というのがこの記録の要点のひとつだ。ドメイン発掘にはBizSnipe.comというサービスを使っている、と本人が述べている。
インフラはCloudflareとDigitalOceanのマネージドPostgres、自作のオープンソース(BoxPDF、LakeQL)。コスト側の注意点として「Cloudflare D1の課金は、データを溜めすぎると事業を壊しうる」と具体的に触れている。サイトの監視やフィードバックへの反応はAIに任せている。
広告を打たない理由
本人は広告を明確に否定しており、その根拠として自分の数字を出している。
別サービス askthe.bot に広告費を投じたところ、集まった約2,000ユーザーのうち約1,900は実在しないトラフィックだったと述べている。そのうえで「GoogleやMetaから来るリードの9割は、アルゴリズムを搾取している業者による偽物だ」と主張している。
対処として採ったのが「$1課金する」だった。ボットは金を払わない。広告収入としてボットが生むのは10セント程度である一方、$1の課金ゲートを置けば実在するユーザーだけが残る、という理屈だ。
この「9割は偽物」という数字は本人の観測であり、第三者に検証されたものではない。ここは主張として扱うべきだが、支払いを最初の関門に置いてトラフィックの質を選別するという設計自体は、無料登録を集めてから課金に転換する一般的な流れとは逆方向で、記録として面白い。
集客で効いたと述べているのは、RedditやXでブロガーに直接DMを送る手法である。「いま新規事業を宣伝する良い方法は存在しない」というのが本人の総括だ。
利益相反について
読み手として押さえておくべき点がある。Aronesty氏は、記事内で推奨しているドメイン発掘サービスBizSnipe.comの所有者であることを、記事のコメント欄で指摘されている。本人の会社サイトの事業一覧にはこのサービスが載っていない、という指摘も併せて出ている。
手法そのものが無効になるわけではないが、「この方法が有効だ」という発信が、同時に自社サービスへの誘導でもある点は割り引いて読む必要がある。
掲載事例の中での位置
本人は本業(週40時間)を持ったまま、直近4か月は週30時間を上乗せして動かしている。副業として運営されている事例の月商中央値は、全体の中央値のさらに10分の1である。その群の中では突出して高い。
再現の条件と限界
一般化できるのは、需要を作るより、残っている需要を拾うほうが安いという点だ。集客コストがゼロに近い場所を先に見つけてから作る、という順序は、本人の助言「作る前に流通経路を確保しろ。ニュースレター10本とユーザー10人を先に」にそのまま表れている。
一般化しにくいのは中身のほうである。OnwardTravelは、ビザ申請などで求められる「出国用の航空券」に応える商売で、DirtSignalは全米約200の行政ポータルからデータを集め、情報公開請求まで代行している。どちらも制度と手続きの知識が要る領域で、エンジニア歴30年という前提を外すと同じ速度では作れない。
限界はもうひとつある。OnwardTravelの売上は継続課金ではない。本人も「旅行系のシステムは本質的にリピートしない」と認めており、月$15,000の7割が毎月ゼロから積み直す売上であることを意味する。積み上がる部分はDirtSignalの側にあり、そちらが伸びるかどうかで事業の性質が変わる。
公開されていないのは、利益、ドメイン1本あたりの取得額、各プロジェクトの訪問数、失敗して捨てたドメインの数と金額である。打率が書かれていない。30本が残っているという事実は、その裏に何本が消えたかを教えてくれない。
出典
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