1本に賭けるのをやめたら月$200が$10,000に。8か月で28本出した副業iOS開発者
本業iOSエンジニアのMax氏が、1本の完璧なアプリを作る方針を捨てて8か月で28本を投入。月$200だった収益は月$10,000に。上位4本が各$1,500を稼ぎ、ツール費は月$285〜295。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
「1本の大作」を捨てた開発者
Max氏はソフトウェアエンジニア歴8年のiOS開発者で、二児の父でもある。本業のフルタイム勤務を続けながら、就業時間外にアプリを作っている。よくある副業開発者の像だが、彼の数字の作り方は一般的なそれとは逆を向いている。
8か月間でリリースしたアプリは28本。月商は$10,000。方針を変える前の収益は月$200だった。1本を磨き込んでいた頃の50倍である。
本人はこう言い切る。「多くの人は、勝つには1本の大きなアプリが必要だと思っている」。
数字で見るポートフォリオ
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 月商 | $10,000 |
| 方針転換前の月商 | $200 |
| 期間 | 8か月 |
| リリース本数 | 28本 |
| 課金ユーザー | 1,000人超 |
| DAU(全アプリ合計) | 4,000〜5,000人 |
| 収益の偏り | 上位4本が各**$1,500前後**、残りはごくわずか |
| 月間ツール費 | $285〜295(約4.3万円) |
| 体制 | 本人1名。本業(フルタイムiOS開発)と並行 |
| 最短の開発時間 | アイデアからApp Store申請まで2時間 |
上位4本の合計はおよそ$6,000。全体の$10,000のうち6割を4本、つまり全体の14%のアプリが生んでいる計算になる。本人も「80対20の法則が働いている」と認めている。
何を作っているのか
作っているのは巨大なアプリではない。競合を2〜3本調べて、ユーザーの主要な悩みを解決する中核機能を一つだけ特定し、それだけを実装する。ジャンルは「学生向けアプリ」ならphysics AI、chemistry AI、math AIといった具合に、一つのカテゴリの中で関連キーワードを横に展開していく。
開発はFlutter。過去プロジェクトからコードの約90%を流用する。ドラッグ&ドロップのボタン、画面、オンボーディングの流れ、ペイウォール——UIコンポーネントは使い回す前提で作られている。デザイン素材はFigmaの自前テンプレートから起こし、App Storeの説明文はChatGPTにキーワードを与えて生成させ、リリース作業はFastlaneで自動化する。この積み重ねの結果が、最短2時間という記録である。
転機はYouTubeを見た日
軌道が変わった瞬間ははっきりしている。YouTuberのAdam Sleiter氏のコンテンツを見たことだ。
それまでMax氏は、1本の「完璧なアプリ」を作ることに時間を注いでいた。ペットプロジェクトと呼べる思い入れのある1本である。そのときの収益が月$200。Sleiter氏の内容を見て、彼は方針を「シンプルなアプリを高速で大量に出す」に切り替え、それまでの1本を放棄した。
前後の対比は明快だ。
| 転換前 | 転換後 | |
|---|---|---|
| 作るもの | 1本を磨き込む | 中核機能1つのアプリを量産 |
| 8か月の産出 | (1本を継続開発) | 28本 |
| 月商 | $200 | $10,000 |
| 判断基準 | 自分の理想 | 市場データ(キーワードと競合収益) |
方針転換の中身で最も重要なのは、作るものを決める主体が自分から市場に移ったことだ。転換後の彼は、ASOツールのAstroでキーワードを探し、次の条件で作るかどうかを決めている。
- キーワードの人気度が20以上
- 難易度が60〜70
- そのキーワードで競合が月$100〜200以上稼いでいる(Sensor Towerで確認)
3つ目が決定的である。競合がすでに稼いでいるキーワードだけを選ぶということは、需要の有無を自分で検証しないという宣言に等しい。市場があるかどうかを調べるのに数か月使うのではなく、市場があると証明済みの場所にだけ入る。
なぜ量産が効いたのか
第一に、アプリストアが検証コストを肩代わりしていること。App Storeにはキーワード検索という需要の入り口があり、競合の売上は外部ツールで推定できる。つまり作る前に「その需要が存在し、金を生んでいる」ことを確認できる。ウェブサービスと違い集客をゼロから作る必要がなく、ストア内の検索順位を取れば流入が生まれる。ポートフォリオ戦略が成立する前提はここにある。
第二に、限界コストがほぼゼロに近づいていること。90%のコード流用、テンプレート化したFigma素材、ChatGPT任せのメタデータ、Fastlaneによる自動化。1本目に払った設計コストが2本目以降に効くため、本数が増えるほど1本あたりの投下時間が下がる。28本を8か月、つまり週1本近いペースで出せるのは、才能ではなく再利用率の設計の結果だ。
第三に、外れを早く捨てる仕組み。彼の運用手順は6段階に整理されている。(1)人気度と難易度の比が良く、実際に収益が出ているキーワードを探す。(2)競合を調べ、中核となる機能を一つ決める。(3)AIツールで画面構成と機能分解を高速に設計する。(4)必要最小限のMVPを作る。(5)リリースして観察し、伸びないものは捨て、データに判断を委ねる。(6)伸びたものに戻って磨き込み、バグを直し、広告を追加する。
「アプリが公開されたら、あとは手放して次のプロジェクトに移るだけだ」と彼は言う。「もう一つの決定的な機能を付けようと考えて、アプリを磨くことに時間を浪費するな。出荷して、ユーザーに何を思うか言わせろ」。磨くのは、データが伸びると言った後、この順序が28本のうち4本に資源を集中させる装置になっている。
見落としてはいけない前提
この数字には注意すべき点がいくつもある。
月$285〜295のツール費の内訳は、OpenAIが$200、Geminiが$50、Cursorが$20、Astroが$10、Firebaseが$5〜10。半分以上をAI APIの従量課金が占める。画像認識やAI処理を売りにするアプリを増やすほどこの費用は増え、収益が伸びない外れアプリでもAPIコストだけは発生する。$10,000という月商は、この変動費が乗った上での数字である。
収益が上位4本に集中していることは強みであると同時に脆さでもある。仮にその4本のいずれかがストアのアルゴリズム変更や競合の参入で沈めば、月商は目に見えて落ちる。24本の「ごくわずか」しか稼がないアプリは、その穴を埋めてくれない。ポートフォリオはリスクを分散していると言えるが、実態としては4本への依存である。
新規リリース直後のストアのブーストに乗っている面もある。本人が観察している通り、App Storeはリリース直後に初期の露出を与え、その後は落ち着く。出し続けることが流入の維持に組み込まれている構造は、裏を返せば手を止めた瞬間に減衰が始まるということでもある。
そして、28本のうち何本が完全な失敗だったかは開示されていない。上位4本以外は「ごくわずか」としか語られておらず、24本分の労力が定量化されていないことは押さえておきたい。
どこまで真似できるか
真似できるのは、判断の順序である。作りたいものから始めるのではなく、収益が出ていると確認できるキーワードから始める。中核機能を一つに絞る。リリース後は磨かず、データが伸びを示した対象にだけ戻る。この順序自体には資本も人脈も要らない。
真似しにくいのは、8年分のiOS開発経験と再利用可能なコード資産だ。「90%を流用する」と言えるのは、流用に耐えるコードを書ける人間だけである。1本目のオンボーディングやペイウォールをゼロから設計できない人が28本を8か月で出すことはできない。最短2時間という記録は、その前に積んだ蓄積の上でしか成立しない。
もう一つ、彼が本業のフルタイム勤務を続けたままやっている点も見落とせない。生活費が本業で賄われているからこそ、24本が外れても事業として成立する。同じ確率の賭けを、収入を絶った状態で回すのは別の難易度になる。
「シンプルなアプリを量産する」という戦略は、確率のゲームである。1本あたりの当たる確率が低いことを前提に、試行回数と1試行あたりのコストで押し切る。この構造を理解せずに本数だけ真似すると、当たらないまま費用だけが積み上がる。
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