教員向け録画アプリで6年、まともな収益はなかった。対象を広げてMRR $42,000に届くまで
2019年にiPhone向けスクリーン録画アプリとして始まり、高等教育の教員に絞っていた時期は「まともな収益がなかった」。対象を全組織へ広げてMRR $42,000・ユーザー10万人に到達したKommodoの記録。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
うまくいかなかった期間が長い事例ほど、公開されにくい。この記録は、2019年から数年にわたって「まともな収益はなかった」と本人が明言したうえで、その後にMRR $42,000へ届いた過程を出している。
現在の数字
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| MRR | $42,000 |
| ユーザー数 | 100,000人以上 |
| チーム | 5人 |
| 資金 | ブートストラップ(調達なし) |
| 開始 | 2019年 |
$42,000はそれをやや下回る位置だが、調達なし・5人で到達している点を踏まえると効率は高い。
最初の想定は狭すぎた
始まりはiPhone向けのスクリーン録画アプリだった。想定していた利用者は高等教育機関の教員で、講義を録画する用途である。
この段階について、本人ははっきり「まともな収益はなかった」と書いている。プロダクトは動いていて、想定した使い方もされていた。それでも金額にならなかった。
理由は、対象の絞り込みが「深さ」ではなく「狭さ」になっていたからだろう。大学教員という母数は限られ、しかも予算の意思決定は個人ではなく機関にある。買う人が少なく、買うまでが遅い市場を最初の的にしていた。
転機は、想定外の使われ方だった
COVID期に状況が動く。想定していた高等教育の教員ではなく、小中高の教師がこのアプリを使い始めた。録画した動画をGoogle ClassroomやCanvasにアップロードする、という使い方である。
ここで創業者が見たのは「教師が増えた」ではなかった。「録画して、それを別の場所に置いて、あとから参照する」という行為そのものが需要の実体だと読み替えている。
そう捉え直すと、対象は教育に限らない。オンボーディング、業務手順書(SOP)、プロダクトのデモ、バグ報告。どの組織にも「動画で撮ったものを、検索できる知識に変えたい」という同じ用事がある。
何を作り替えたか
ピボット後は、チーム向けの動画ナレッジプラットフォームへ全面的に移行している。スクリーン録画に加えて、自動でのガイド生成、AIによる文字起こし、動画内の検索を統合した。
注目したいのは、録画という中核機能を捨てていないことである。捨てたのは「教員向け」という宛先だけだ。作り直しではなく、宛先の付け替えに近い。
この違いは大きい。技術スタックを入れ替え、機能の方向も変えた結果、次のバージョンまでに19ヶ月かかって終わったSEOツールのように、土台から作り替えるピボットは時間を食い尽くす。Kommodoは、すでに動いているものの用途を広げる形で移行している。
「使われ方を見る」という工程
この事例の中心にあるのは、実際の使用パターンを観察して、そこから市場を読み直したという一点である。
これは、ユーザーがいなければ実行できない。収益はなかったが、使う人はいた。だから観察の対象が存在した。
対照的に、掲載している撤退事例の多くは、この観察対象そのものを持っていない。β版初日に1,000人が来たあと、その後の利用を測る仕組みがないまま19ヶ月開発を続けた事例や、需要を確かめる工程を一度も挟まずに17言語まで作り込んで止まったアプリでは、読み替えるべきデータが最初から存在しない。
収益ゼロでも、使われてさえいれば次の手が見つかる。この事例が示しているのはその順序である。
「狭く始める」と「狭いまま終わる」の境目
創業初期に対象を絞れという助言は広く共有されている。この事例は、その助言の落とし穴を示している。
高等教育の教員という設定は、絞り込みとしては正しい形をしていた。誰に売るかが明確で、その人たちが抱える課題も具体的である。それでも収益にならなかった。
問題は、絞った先の市場に買う力があるかどうかを確かめていなかった点にある。大学教員は課題を持っているが、支払いの決裁権を持っていないことが多い。課題の有無と、支払い能力の有無は別に検証する必要がある。
そして重要なのは、この判定が机上ではできなかったことだ。数年使ってもらって初めて「使われてはいるが金にならない」と分かっている。絞り込みが正しいかどうかは、絞ってしばらく走らないと判明しない。その期間をどこまで許容するかが、この種の事業の分かれ目になる。
効いたこと・分からないこと
読み取れる勝ち筋は3つある。中核機能を維持したまま宛先を広げた。想定外の利用者を「例外」ではなく「信号」として扱った。市場が動いた時期(COVID)に、その動きの意味を再解釈した。
一方で、この記録から見えないことも多い。価格が公開されていない。MRR $42,000とユーザー10万人という数字はあるが、そのうち何人が有料なのかが分からない。10万人全員が無料なら有料は別の少数ということになり、転換率の議論ができない。
集客の内訳も出ていない。5人のチームでどうやって10万ユーザーに届いたのか、広告を使ったのか、口コミなのかは記されていない。ピボット前後で獲得経路が変わったのかどうかも不明である。
再現の条件と限界
一般化できるのは、「誰に売るか」は「何を作るか」より後から変えやすいという点である。プロダクトを作り替えるには数ヶ月かかるが、宛先を変えるのは訴求と営業先の付け替えで済む場合がある。収益が立たないとき、まずプロダクトを疑うより先に、宛先を疑う余地がある。
一般化しにくいのは、COVIDという外部要因である。教師が一斉にオンライン録画を始めた時期がなければ、想定外の利用者は現れなかったかもしれない。読み替える材料が向こうから来たという運の要素は否定できない。
そして最大の留保は、「まともな収益がなかった」期間の長さが公開されていないことだ。2019年開始で現在$42,000まで来ているが、その途中でいつ何が起きたかの時系列は残っていない。数年耐えた事例として読むことはできるが、耐えるべきかどうかの判断材料にはならない。
出典
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