眼鏡技師からSaaS3本で月商$28,000。勝てる戦場だけを選ぶという判断
眼鏡技師だったSamuel Rondotは、コードを書かず人力で回した初事業で月商$30,000に到達して独立した。現在はSEOを主軸に3つのSaaSを並行運営し合計月商$28,000。LinkedInの規制で1本が減っても他が支える構造にしている。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
「コードが書けない」から始まった事業
Samuel Rondotはフランスのスイス国境近くに住み、3年間、眼鏡技師として働いていた。仕事そのものは嫌いではなかったが、物理的に一箇所に縛られる状態が続けられないと感じていたという。近くに空港があり、その光景が変化への動機を毎日思い出させたと本人は語っている。
朝と夜に副業を進め、やがて独立した。現在は3つのSaaSを並行して運営し、合計で月商約$28,000である。
この事例で面白いのは、最初の事業がそもそもコードで作られていなかった点だ。
現在のポートフォリオ
| プロダクト | 月商 | 状況 |
|---|---|---|
| StoryShort.ai | 約**$20,000** | 約1年前にローンチ。SEOを主軸にYouTubeを補助的に併用 |
| UseArtemis.co | 約**$5,000** | LinkedInが自動化の制限を強化した影響で最盛期から減少 |
| Capacity.so | 約**$3,000** | 高校時代の友人と共同。新しく、着実に伸長中 |
| 合計 | 約$28,000 | すべてサブスクリプション課金 |
過去の実績として、2017年に始めたMathPlannerがある。Instagramの自動化サービスで、月商は約$30,000に達した。
技術構成は3プロダクトとも同じで、フロントエンドがNext.js(Vercel)、バックエンドがNode.js(AWS)、データベースがMongoDB。本人いわく「技術スタックは超シンプルで、常に同じ」。プロダクトを増やしても構成を変えないことで、並行運営の負荷を抑えている。
転機(1)——コードを書かずに需要を証明した
最初の転機は2017年のMathPlannerである。これはSaaSに見えて、中身がコードではなかった。
「コードすら書かれていなかった。WordPressのランディングページの裏で、インドとバングラデシュの実際の人間が自動化の作業をやっていた」
ランディングページで注文を受け、裏側は人力で処理する。この形で月商$30,000に到達し、眼鏡技師の仕事を辞める根拠になった。
これが転機である理由は、金額ではない。「作れないから始められない」という前提を、事実として一度壊したからだ。彼が当時抱えていた最大の障壁は本人の言葉で「単純だった。コードが書けなかった」であり、代替手段としてWordPressのプラグインを使ったが「ほとんど動かず」カスタマイズは苦痛だった。その状況でも売上は立った。
before / after で言えば、眼鏡技師の給与所得から月商$30,000の自営へ。手段は技術力ではなく、需要のある作業を人力で肩代わりすることだった。
転機(2)——勝てない戦争から降りた
2つ目の転機は、現在のポートフォリオを作るうえで決定的だった。集客手段の選び直しである。
彼は当初、Meta広告での顧客獲得を試している。そこで分かったのは競合の懐事情だった。
「競合は$30の売上を得るために$200を使うことを気にしない」
資金調達を受けた競合は、単位あたりの獲得コストで赤字を出しても構わない。自己資金の個人がその土俵で殴り合えば、資金が尽きた側が先に消える。ここで彼は直接的な有料獲得での競争から降りた。
「勝てる戦争だけを戦う。競合の多くは資金調達をしているから、こちらはもっと創意工夫が必要になる」
代わりに置いたのがSEO、YouTube動画、そしてAIエンジン向けの最適化である。現在、SEO経由の流入は全プロダクト合計で1日あたり約400クリック。SEOについて彼は「時間はかかるが、複利で効いて最強の成長チャネルになる」と位置づけ、長期の主軸に据えている。有料広告(MetaとGoogle)は短期の補助として残しているが、主戦場ではない。
なぜこの組み立てが効いたのか
3つの層に分けて説明できる。
第1に、資金の非対称性を認めたうえで戦場を選んだこと。 「広告で勝てない」というのは、努力が足りないのではなく、資本構造が違うという事実である。調達済みの競合はLTVを回収する前にCACを払える。自己資金の個人はそれができない。ここを精神論で処理せず、コストの性質が違うチャネル(時間を投じれば資産として残るSEOやコンテンツ)に移したことが、単位経済を成立させた。表面の施策名は「SEOをやった」だが、構造は「相手が金で買える場所を避け、時間でしか買えない場所に立った」である。
第2に、需要の検証を作る前に置いていること。 彼は着手前に検索ボリューム、SEO指標、競合の強さ、競合がどうやって顧客を獲得しているか、市場の需要シグナルを見る。原則は明快だ。
「需要を検証する前に何も作るな」
MathPlannerで人力でも売れたという経験がここに繋がる。作る速度ではなく、確かめる速度を上げるのが彼のやり方であり、「直感は信じるが、データでも検証する。これで何ヶ月もの無駄を避けられる」と述べている。
第3に、ポートフォリオが実際に損失を吸収したこと。 UseArtemisはLinkedInが自動化の制限を強化したことで最盛期から$5,000まで落ちている。しかし全体の月商は$28,000を保っている。1本のプロダクトが外部の規約変更で削られても、他が支える。これは理屈上の分散ではなく、実際に起きた減収を吸収した実例である。
効いていない部分、抱えている問題
プラットフォーム依存の代償は現在進行形だ。 UseArtemisの減収は、LinkedInという他社基盤の上に事業を建てたことの直接の帰結である。ポートフォリオが全体を守ったが、その1本自体は元に戻っていない。
チャーンの構造的な難しさもある。 StoryShortのようなニッチは「本質的にLTVが低く、解約は常に課題」と本人が認めている。faceless動画の生成という用途は、単発の目的が満たされれば離脱しやすい。だからこそ成長式は「新規獲得、解約の削減、リテンションを上げるためのプロダクト改善」という当たり前の3点に収束する。
そして$20,000の壁について、彼自身の見立ては率直だ。 MRR $20,000までは「簡単」で、その先が本当の仕事が始まるところだという。StoryShortにはSEO経由でまだ伸びしろがあるとしつつ、ここから先が難所であることを隠していない。
何が移植でき、何が移植できないか
移植できるもの。 作る前に検索ボリュームと競合の獲得手段を調べるという順序。有料広告で資金力のある競合と正面から戦わず、時間が資産化するチャネルに寄せる判断。プロダクトを増やしても技術スタックを固定し、運用負荷を上げない設計。単一プラットフォームの規約変更に備えて収益源を複数持つこと。そして「まず人力でもいいから需要を確かめる」という初手。
移植できないもの。 2017年という、Instagram自動化がまだ成立していた時期の追い風。当時と現在ではプラットフォームの規制水準がまったく違い、同じ手は打てない。また、独学でコードを習得し3プロダクトを並行運営できるだけの技術力は、数年かけて積んだものである。AIコーディングツールについて彼は「今から始めても自分はコードを学ぶ。ただし最初のバージョンを速く作るためにAIは徹底的に使う」と述べており、学習を省略できるとは考えていない。
彼が次に置いている目標は、Capacity.soを月$100,000まで伸ばすことだ。コードを書かずにツールを作りたい人の市場は大きい、というのがその根拠である。コードが書けないまま人力で始めた人物が、コードを書きたくない人のためのツールを作っているという筋の通り方は、この事例の要約として過不足がない。
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