SEOTesting、名前を捨てたら9カ月で「2年半分」を売った——無料ツールSanityCheckの改名・再構築でMRR $18K・顧客330社へ
自サイト用の内製ツールを無料公開し、5カ月後に月$10で課金開始するも数千ドルで停滞。英国のNick Swan氏はドメイン取得に$2,500を投じて「SEOTesting」へ改名・ゼロから再構築し、9カ月で旧名SanityCheckの2年半分の売上に到達した。2022年9月時点でMRR $18K・顧客330社超。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
プロダクトは同じ方向を向いたまま、名前とポジショニングを替えただけで、売上の傾きが変わった——SEOTesting.comの歩みは、その珍しく明確な実測例だ。英国の開発者Nick Swan氏が2022年9月のポッドキャストで開示した数字によれば、この時点でMRR $18,000超・有料顧客330社超。起点は、自分のアフィリエイトサイトのために書いた内製スクリプトだった。
注目すべきは、この事業が「作った→伸びた」の一本道ではないことだ。無料ツールとして公開され、月$10で課金され、SanityCheckという名前で数年運営されて停滞し、$2,500のドメイン購入と作り直しを経てようやく現在の曲線に乗った。同じ機能でも、名前と値段と売り先の設定次第で結果がここまで違うという記録として読める。
数字の整理
| 時点 | 数値・出来事 |
|---|---|
| 2015〜2016年頃 | 自身のクーポンサイト運営のためにSEOテスト用の内製ツールを開発 |
| 公開〜約5カ月 | 無料ベータとして運用。SEO系のFacebookグループやSlackで配布 |
| 2017年頃 | 「SanityCheck」として課金開始。月$10・14日間トライアル |
| SanityCheck期 | MRRは数千ドルで停滞(2年半運営) |
| 2018年1月 | Google Search Consoleの取得可能データが3カ月分→18カ月分に拡張(市場側の転機) |
| 2020年頃 | SEOTesting.comのドメインを$2,500で購入、アプリをゼロから再構築 |
| 改名後9カ月 | SanityCheckが2年半かけた売上額に到達 |
| 2022年9月 | MRR $18,000超・顧客330社超・実働3人 |
「便利ツール」と「仕事の名前」の違い
出自から確認しておくと、このツールはSaaSとして構想されたものではない。Swan氏は当時クーポンコード系のアフィリエイトサイトを運営しており、タイトルやメタ情報の変更が検索のクリック率にどう効くかを自分のサイトで検証するために、Search Consoleのデータを引いて前後比較するスクリプトを書いた。つまり最初の顧客は自分自身で、「この検証を手作業でやるのは苦痛だ」という需要は公開前から実証済みだった。無料公開はその確認作業の延長にすぎない。
SanityCheckからSEOTestingへの改名は、単なるリブランドではなく、プロダクトの説明コストを消す操作だった。SanityCheckという名前は、何のツールなのかを一切伝えない。一方SEOTestingは、SEO担当者が予算を確保するときに使う言葉そのものだ。「SEOテストをするツールが要る」と思った人が検索する語がそのままドメインになっている。Swan氏が$2,500を払ったのは文字列ではなく、この説明コストの削減だと考えると安い。
値付けの失敗も本人が明言している。課金開始時の月$10は「安すぎた」。ユーザーはSEOで飯を食う実務者と代理店であり、施策の効果検証はレポートとして顧客に請求される仕事の一部だ。月$10の価格は「趣味の便利ツール」の値段であり、買い手の業務に組み込まれる「仕事の道具」の値段ではなかった。改名・再構築は、この価格と客層の設定をやり直す機会でもあった。
土台の設計も特徴的だ。SEOTestingは検索データを自前で収集せず、Google Search Consoleの公式APIの上に薄く乗る。2018年1月にGoogleが取得できるデータを3カ月分から18カ月分へ拡張したことで、「前後比較でSEO施策を検証する」というこのツールの中核機能は、Google自身のデータ拡充に押し上げられた。プラットフォームの上に乗る戦略は、Gmailの上で月$130Kを作ったGMassと同様に、インフラコストを外部化できる代わりに、土台側の仕様変更を常に浴びる位置でもある。
集客: コミュニティ配布と、効いた有料チャネル
初期の配布はSEO実務者が集まるFacebookグループとSlackコミュニティだった。無料ツールはこの文脈で強い。金を取らないうちは「宣伝」ではなく「共有」として扱われ、実務者コミュニティの中を自走する。約5カ月の無料期間は、機能検証と同時に、後の有料化の見込み客リストを作る期間として機能した。
有料化後に効いたチャネルとしてSwan氏が挙げるのは、口コミと、意外にもTwitter広告だ。SEO業界は実務者がTwitter上に高密度で集まっており、ターゲティングが職種単位で成立する。「広く浅く」ではなく「狭いが確実にいる」場所への広告は、ニッチSaaSの数少ない有効な有料獲得だった。同じくSEO領域で自動化を売るSEObotのMRR $46Kも、実務者コミュニティへの浸透を軸にしている点で読み比べられる。
停滞の2年半と、効かなかったこと
この事例の裏面は、SanityCheckとして過ごした停滞の2年半だ。機能は本物で、無料ユーザーもいて、課金もされていた。それでもMRRは数千ドルで止まった。原因を一つに絞ることはできないが、本人の振り返りから読み取れるのは、名前が用途を説明しないこと、$10という価格が客層を「安さで選ぶ層」に寄せてしまったこと、そしてフルタイムの本業や他プロジェクトと並行する片手間運営だったことの複合だ。
似た構図の反面事例として、日本の個人開発SEOツールTrackyがクローズに至った記録がある。ツールとして便利であることと、事業として立つことの間には、名前・価格・客層の設定という別の仕事が挟まっている。SEOTestingはその設定をやり直す決断(動いているプロダクトをゼロから書き直し、育てた名前を捨てる決断)に$2,500と数カ月を払った。
なおSwan氏は2022年から自分でコードを書くのをやめ、契約から共同創業者格になった技術担当のPhil氏と、サポート・コンテンツ担当のTiago氏に運営を分担している。ソロで始まった事業だが、$18K時点の実態は3人の小チームだ。
再現の条件と限界
持ち帰る価値があるのは、①内製ツールの外部公開は、需要検証済みの題材から始められる分だけ成功率が高い、②「検索される仕事の言葉」をプロダクト名に据えることは、広告費より安いマーケティングになり得る、③価格は機能ではなく、買い手の業務の中での位置(経費で落ちる仕事道具か、個人の便利ツールか)に合わせて決める、という3点だ。
限界も押さえておきたい。改名後の急伸は、Search ConsoleのAPI拡充という市場側の追い風と重なっており、改名単体の効果として切り出すことはできない。また「9カ月で2年半分」という比較は、無料期間に積んだユーザー基盤と学習を引き継いだ上での数字であり、ゼロからの9カ月ではない。プラットフォーム依存のリスクも消えていない。Search Consoleの仕様が変われば、中核機能ごと作り直しになる位置にいることは、この事業の前提条件である。
出典
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