Stoic Muse、ストア哲学のTシャツを月100〜150枚。粗利40%、広告は赤字、効いたのは★200件
Amazon FBAに疲弊した個人が2020年2月、放置していたEtsyストアを再開。ストア哲学のPoD Tシャツで月100〜150枚・月商$3,000・粗利40%。Facebook広告は収支トントン、伸ばしたのはEtsy内SEOと★5レビュー200件だった。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
(以下、ドル表記に添えた円は1ドル150円で換算した概算)
Amazonをやめた人がEtsyで見つけたもの
Stoic Museは、ストア派哲学とマルクス・アウレリウスをモチーフにしたプリント・オン・デマンド(PoD)のTシャツショップである。運営者はデンバー在住のJeff、従業員はいない。売上の約9割がTシャツで、残りがステッカーとポスターだ。
面白いのは出発点である。Jeffは以前Amazon FBAで物販をやっていた。本人の言葉を借りれば「魂を吸い取られるようなAmazon Seller Central」に消耗し、そこから離れた先がEtsyだった。2019年はバリでデジタルノマドをしながらバイクに乗り、オーディオブックを聴いていた。そのうちの一冊、ライアン・ホリデイの『The Obstacle is the Way』が商品テーマの直接の種になっている。
数字とタイムライン
| 時期 | 出来事・数字 |
|---|---|
| 2016年 | 木工作品用にEtsyストアを開設(その後放置) |
| 2019年 | Amazon FBAで疲弊。バリ滞在中にストア哲学のオーディオブックに触れる |
| 2020年2月 | 放置していた既存ストアをStoic Museとして再開。Printfulと連携 |
| 2020年3月 | コロナでPrintfulが数ヶ月停止、納期が1ヶ月超に。PoD先の分散に着手 |
| 2020年12月 | 月100〜150枚販売、月商$3,000、粗利率約40%。★5レビューは200件近く |
| 同時点の目標 | 12月に500枚販売 |
なお、Starter Storyの掲載欄には「$10K revenue/mo」という数字も並ぶ。本文でJeff自身が語っているのは「月100〜150枚、月商$3,000」であり、この記事では本人の記述側を基準に置いた。掲載欄の数字はその後の更新値と見られるが、内訳の裏取りができないため、ここでは幅として扱う。
商売の形
在庫を持たない。注文が入るとPrintfulが印刷し発送する。したがって初期投資はほぼゼロで、試作費も製造費も発生しない。その代わり原価が固定的に重く、粗利率は約40%に張り付く。Tシャツ1枚あたりの利幅が薄いという構造は、後述する広告の話に直結する。
デザインはJeffが独学で覚えた。ここに一つ、本人が強調する原則がある。媒体ごとにデザインを設計するということだ。同じ図案をTシャツにもステッカーにもポスターにも流用するのではなく、それぞれの物としての見え方に合わせて作る。汎用テンプレートを横流しする多くのPoDショップとの差はここに置かれている。
販路はEtsyが主で、後にShopifyで独自ドメイン(stoicmuse.com)も立てた。印刷側はPrintfulを主軸に、Printify、Merch by Amazon、Threadlessを併用している。
決定打はどこにあったか
軌道を決めた判断は、時期の異なる二つに分けられる。
一つ目は2020年2月、売り場をAmazonからEtsyに変えたこと。これは単なる引っ越しではない。Jeffの観測では、Etsyの顧客はAmazonの典型的な顧客よりずっと感じが良く、レビューにも応じてくれる。EC界隈ではEtsyは「主婦の売り場」と軽んじられがちだが、彼はそこに大きな機会があると見た。薄利のPoD Tシャツにとって、レビューが積みやすい売り場を選ぶことは競争条件そのものを変える選択だった。
二つ目は2020年3月、コロナでPrintfulが止まったとき。納期が1ヶ月を超え、事業が動かなくなった。ここでJeffは印刷先を一社依存から複数社に分散させる。売上が伸びた瞬間ではないが、単一障害点を潰したという意味で軌道を守った判断である。
何が売上を作っていたのか
伸ばした要因は二つに絞れる。
Etsy内のSEO。月$10のeRankでキーワードを調べ、商品タイトルとタグを設計する。これはGoogleではなくEtsyの内部検索に対する最適化だ。ストア哲学のTシャツを探している人は「stoic t shirt」「marcus aurelius shirt」のような語で検索する。つまり買う直前の意思決定の場に、購入意図の明確な語で置きにいく作業である。外部から人を連れてくるのではなく、既に集まっている人の動線に入る。
★5レビュー200件近く。これを作った仕掛けは、注文時のレシートに添える一文だけだ。「ご注文ありがとうございます。Etsyのレビューを残していただけたらとても嬉しいです」。Jeffはレビュー件数が転換率に直結していると見ている。マーケットプレイスでは、レビュー数はそのまま検索順位と説得力の両方に効く。1件のコストはゼロで、効果は在庫のように積み上がる。
この二つが噛み合うと自己強化の輪ができる。検索で上位に出る → 売れる → レビューが増える → さらに上位に出る。広告費を投じない事業がマーケットプレイスで回る典型的な形である。
効かなかったこと
Facebook広告は数百ドルを使って、良くて収支トントンだった。理由は明快で、Tシャツの利幅が薄すぎるからだ。粗利40%の商品では、獲得単価が少し上がるだけで赤字に転ぶ。薄利商材と有料広告の相性の悪さが、実額で確認された格好である。
SNSは本人の言葉で「完全にゴミ」。ただしこれは施策の失敗というより投資の不在で、Jeff自身が「コンテンツ作りが心底嫌いだ」と認めている。将来事業が伸びたら外注する、というのが彼の整理だ。
Etsy以外のPoDプラットフォーム、Merch by AmazonやRedbubbleでの直販はEtsyに比べて売上がごくわずかだった。分散はリスク対策としては効いたが、販路の追加としてはほとんど寄与していない。
再現できること、できないこと
再現しやすいのは仕組みの側だ。在庫を持たないPoD、月$10のキーワードツール、レシートへのレビュー依頼文、印刷先の複数化。どれも資本も人手もほとんど要らず、今日から真似できる。特にレビュー依頼の一文は、マーケットプレイスで売る全員が明日から入れられる。
再現しにくいのは条件の側である。まず、Jeffは2016年に開設した既存ストアを再利用しており、ゼロからのアカウントではなかった。次に、2020年前半はコロナ下で在宅時間とEC需要が同時に膨らんだ特殊な時期で、この追い風は選べない。そしてAmazon FBAで培った物販の勘所とデザインを独学しきる時間は、ゼロから始める人には別途必要になる。
規模感も正直に押さえておきたい。月100〜150枚、月商$3,000、粗利40%であれば、粗利は月$1,200前後にとどまる。生活を賭ける水準ではなく、嫌いな仕事から離れた個人が自分の関心の延長で作った小さな商売、というのが実像に近い。
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出典
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