Streets of Rogue、自己資金270万円のインディーゲームが約9.7億円で売却されるまでの6年
開発者1人・自己資金$18,000で作られたローグライク『Streets of Rogue』が、累計100万本・生涯売上$800万を経て2021年6月にtinyBuildへ$650万で売却された。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
個人開発のゲームがIPごと上場企業に買われる、という出口がある。開発者はMatt Dabrowski氏ただ1人。外注費を中心とした開発費は約$18,000。そこから生まれた『Streets of Rogue』は累計約100万本を売り、生涯売上$800万に達し、2021年6月にパブリッシャーのtinyBuildへ$650万(現金と株式が半々)で売却された。個人が数百万円で始めたものが10億円規模の資産になった事例として、数字の出どころと転機を追う。
タイムラインと数字
| 時期・項目 | 内容 |
|---|---|
| 1990年代後半 | 高校時代に初作『BurgerJoint』を制作 |
| 2015年 | 本業のIT職を失い、ゲーム開発を専業化 |
| 2015年10月 | 無料アルファ版を公開 |
| 2016年 | GDCでtinyBuildと接触、複数パブリッシャーへコールドメール |
| 2017年3月 | Steam早期アクセス開始 |
| 2019年7月12日 | 正式リリース |
| 2020年夏 | tinyBuild側から買収の打診、協議開始 |
| 2021年3月 | tinyBuildがIPO(企業価値約$6億) |
| 2021年6月 | 売却成立。約2.5ヶ月の集中交渉 |
| 開発費 | 約$18,000(自己資金) |
| 生涯売上 | $800万 |
| 累計販売本数 | 約100万本(全プラットフォーム合計) |
| Steam評価 | 96%好評(15,800件超) |
| 売却額 | $650万。現金+新規発行株式+将来収益の一部 |
| 法務費用 | $70,000超 |
何を作っていたのか
『Streets of Rogue』は、プレイヤーが多様なキャラクターで街を攻略するローグライク・アクションである。開発体制は一貫してDabrowski氏1人で、$18,000という開発費の主な用途は音楽とアートの外注だった。つまり企画・プログラム・全体設計という中核部分は自分で持ち、外に出したのは自分が不得手な領域だけ、という配分になっている。
軌道が変わった二つの地点
この事例の転機は二つある。性質がまったく違うので分けて見る必要がある。
一つ目は2015年10月の無料アルファ公開である。 完成品を売る前に、無料版を出してフィードバックを集め、少しずつプレイヤー基盤を広げた。2017年3月のSteam早期アクセスはその延長線上にあり、コアなプレイヤー群を相手に開発を回す形が定着した。結果として、2019年7月の正式リリース時点で、初動売上と好意的なレビューを供給できる観客が既に存在していた。Steam評価96%・15,800件超という数字は、発売日に集めたものではなく、その4年近い助走の産物である。
二つ目は2021年3月のtinyBuildのIPOである。 買収の打診自体は2020年夏に来ていたが、時価総額$6億でtinyBuildが上場したことで交渉が一気に加速し、そこから約2.5ヶ月で成立した。売却対価に「新規発行株式」が含まれていることが、この因果関係をそのまま示している。上場して株式という通貨を手にした買い手が、最高評価の看板タイトルのIPを自社に取り込みにきた。という構図だ。
なお、2016年のGDCでtinyBuildと出会い、複数のパブリッシャーへコールドメールを送ったことが、5年後の買い手との関係の起点になっている。転機は突然訪れたのではなく、5年前に自分で作った接点が熟したものである。
伸びた理由を分解する
第一に、資本ではなく時間を投じる構造になっていた。 $18,000という開発費は、外注比率を極端に絞った結果である。資金を借りていない以上、返済期限も投資家の成長要求もない。だからこそ2015年のアルファから2019年のリリースまで4年近くかけられた。この「締切のなさ」が、早期アクセスで作品を鍛える時間を買っている。
第二に、評価の高さがIPの価格を作った。 tinyBuildにとって『Streets of Rogue』は自社で最も評価の高いタイトルだった。パブリッシャーは通常、収益の分配権は持つがIPは持たない。IPを買うということは、続編や派生作品を自社の裁量で作れる権利を買うということであり、評価96%という数字はその権利の将来価値を裏づける材料になる。売れた理由は「売上が大きかったから」だけではなく、「続編が作れるほど支持されていたから」である。
第三に、売り手が譲るものを分けていた。 売却されたのはゲームのIPであり、Dabrowski氏は自社DogHelm Studiosを手元に残して他作品の開発を続けられる形にした。全部を売らずに、価値が集中している一点だけを切り出す設計になっている。
数字の見え方には注意がいる
Dabrowski氏自身が、生涯売上$800万について釘を刺している。「この金額の大半はSteam/Xbox/PlayStation/Nintendoの各ストア、tinyBuild、そして税金に回っており、実際に(自社の)DogHelmが受け取った額はかなり少ない」。プラットフォーム手数料とパブリッシャー取り分と税を抜いた後の手取りは、表示された売上とは別物である。個人開発の収益を読むときに最も誤読されやすい部分だ。
売却プロセス自体のコストも小さくない。同氏は法務・契約の過程を「長く、費用がかかり、常に快適とは言えない」と表現しており、ゲーム法務に詳しい専門家を立てて契約を何度も改訂した結果、法務費用は$70,000を超えた。加えて対価の一部は将来収益の分配と、既存作および続編の運営目標に連動する成果条件つきである。$650万という数字は、契約時点で全額が確定した現金ではない。
再現できる部分と、できない部分
再現しやすいのは設計の考え方のほうだ。中核作業を自分で持ち、不得手な領域(音楽・アート)だけを外注して開発費を数百万円に抑える。完成前に無料版を出して観客を作り、早期アクセスで鍛えてから正式リリースする。売るときはIPだけを切り出し、法人格は残す。これらはゲーム以外の個人プロダクトにもそのまま移せる。
再現しにくい条件も明確である。買い手のIPOという外部イベントが交渉を加速させたこと、Steam早期アクセスという「未完成品を有料で売りながら育てられる」市場が存在すること、そして2016年に業界カンファレンスで築いた関係が5年後に効いたこと。いずれも本人の努力だけでは呼び込めない。さらに、100万本という数字の背後には無数の未達タイトルがあり、96%好評という評価は再現の前提にできる変数ではない。
この事例が示しているのは「1人でも10億円規模の資産を作れる」ことではなく、資金を入れずに時間を長く取れる体制を作った者だけが、評価が固まるまで待てるという順序のほうである。
あわせて読みたい
出典
近い規模・近い業種の事例
よく読まれている記事
- 1
Payout、14日で「バイブコーディング」した集団訴訟アプリが9ヶ月でARR $1,003,227。開発費は約$10、伸ばしたのはフォロワー1,000万人の相棒
直近29人が訪問 - 2
売上30円から8年。アプリ3本を並行運営して月20万円に届いた個人開発の記録
直近27人が訪問 - 3
Starter Story、月$91.7Kの起業事例メディアがHubSpotに買収された。「買収すべき」と自分でツイートしてから数ヶ月
直近26人が訪問 - 4
minne販売で最高月商100万円。元デザイナーのハンドメイド作家が語る「売れる写真」の技術
直近22人が訪問 - 5
Instatus、ステータスページ一本でMRR $48K。有料顧客ゼロの「Sup」を捨てて大企業向けに値上げ
直近22人が訪問
新着記事
- 2026年10月8日
VMagicMirror、ほぼ全機能を無料で配ったままBOOTH累計1,000万円。公開4年、2,500円の有料版は「寄付」だった
- 2026年10月8日
Native、成分表が読めなかった弁護士のデオドラントD2Cが約2年半でP&Gへ——$100M現金売却、創業者の持分は9割超だった
- 2026年10月8日
10Beasts、記事8本のAmazonアフィサイトが9ヶ月で月$80Kに——大学生が$570Kで売却した17日後、Googleペナルティが来た
- 2026年10月7日
Repsona、1人で5年・総売上1,240万円——「スタートアップとしては大失敗」と自己査定するタスク管理SaaSの帳簿
- 2026年10月7日
Bargaineering、1日数セントの家計ブログが5年で$3M売却に——Jim Wangが自分で明かし続けた停滞との付き合い方



