WooThemes、ケープタウン発のWordPressテーマ屋を$30M超のExitに導いたのは、後発の"社内プラグイン"WooCommerceだった
南アフリカ発のWordPressテーマ会社WooThemesは2015年5月、Automatticへ売却された。Re/code報道によれば対価は現金+株式で$30M超。2008年に3人で始めた自己資金の会社を出口に導いたのは、2011年に後発で出したECプラグインWooCommerceだった。売却時は約20カ国55人。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
2015年5月、WordPress.comを運営するAutomatticは、WordPressテーマ販売会社WooThemesの買収を発表した。WordPress専門メディアPost StatusとThe Tech Portalが伝えたRe/codeの報道によれば、対価は現金と株式をあわせて$30M超。Automatticにとって当時最大の買収である。
WooThemesは2008年、Mark Forrester、Magnus Jepson、Adii Pienaarの3人が始めた、商用WordPressテーマの草分け的なショップだ。本社の所在地は南アフリカ・ケープタウン——シリコンバレーからも欧州からも遠く、VCの調達環境にも恵まれない場所である。外部調達はせず、Post Statusの表現を借りれば「ブートストラップ企業として、利益を出さなければ生きられなかった」。その会社が7年後、約20カ国に散らばる55人のリモートチームごと、WordPressの本丸に買われた。
ただし、$30M超の値札が付いたのは祖業のテーマではない。創業から3年たった2011年9月、社内プロジェクトとして後発で出したECプラグイン。WooCommerceである。
数字の整理
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 創業 | 2008年(ケープタウン、創業者3人・自己資金) |
| WooCommerce公開 | 2011年9月(専任リードはMike Jolley氏とJay Koster氏) |
| 有効インストール | 100万超(累計760万DL、The Tech Portal) |
| ECシェア | 全Webサイトで24%超、上位100万サイトでも約20%(Post Status) |
| 拡張機能 | 有償・無償あわせて346種(約200が自社・提携開発) |
| 売上推計 | 2013年に約$9〜10M、2015年は年約$15Mペース・月次成長10〜20%(Post Status推計) |
| チーム | 55人・約20カ国(買収でAutomatticは360人超に) |
| 対価 | 現金+株式で$30M超(Re/code報道。当事者は非公表) |
「テーマを売る会社」がECの土管になるまで
WooThemesの祖業は、WordPressサイトの見た目を着せ替える有料テーマの販売だ。しかしテーマは本質的に一点物のデザイン商品で、買い替え需要は薄く、流行り廃りも速い。転機は2011年、WordPressサイトにECの機能を載せるプラグインWooCommerceを無償公開し、その上で動く拡張機能(買収時点で346種、うち約200が自社・提携開発)を有償販売する構造を作ったことだった。
この設計の妙は、無償のコア部分がWordPress.orgの公式プラグインディレクトリという巨大な流通網に乗ることにある。広告を打たなくても、「WordPressでECサイトを作りたい」という需要が発生するたびにWooCommerceが検索され、インストールされる。有効インストール100万超という分母が先にでき、その一部が拡張機能の購入者に転化する。買収時点でEC市場のシェアは全Webサイトの24%超。Post Statusの推計で2013年に約$9〜10M、2015年には年$15Mペースの売上を、営業部隊なしで積み上げた。
Automatticは何を買ったのか
Post Statusの分析で目を引くのは、拡張機能の年次更新率が17%と著しく低いという指摘だ。つまり売上の大半は新規顧客の初回購入で、継続課金基盤としてはまだ弱い。それでも$30M超が付いたのは、買い手がAutomatticだったからだ。WordPress.comを持つAutomatticにとって、WordPress上のEC標準を握ることは、プラットフォームの将来の収益レイヤーを丸ごと押さえることを意味する。単体のP/Lではなく、シェア20%超という「位置」を買ったのである。低い更新率も、プラットフォームの本体側から課金設計を作り直せる買い手にとっては、欠陥ではなく伸びしろと読める。
この構図は、WordPressテーマ会社Array Themesの売却と比べると輪郭がはっきりする。テーマ単体の会社の出口が「人材と製品ラインの取り込み」にとどまるのに対し、WooThemesはテーマ屋でありながら「プラットフォームの標準」という別次元の資産を持っていた。売却額の桁の違いは、事業規模の違いというより資産の種類の違いである。
効かなかったこと・危うかったこと
WooThemesの7年は成功の一本道ではない。祖業のテーマ事業は、まさに競争激化と価格下落の市場であり、テーマだけを売り続けていた場合の出口は、はるかに小さいものになっていた可能性が高い。社内の新規プロジェクトだったWooCommerceに、専任の開発リード2人を置いて本気で投資した判断が会社の運命を分けた。
もう一つの危うさは、他社プラットフォームの上に事業を建てることそのものだ。WooCommerceの流通はWordPress.orgのディレクトリに、技術的存立はWordPress本体の仕様に依存する。プラットフォーム側の方針変更ひとつで前提が崩れるリスクは、WooCommerce向けプラグインで月$8Kを売り上げた個人開発の事例のような、さらに下の階層で商売する事業者にはより切実に効いてくる。WooThemesの場合は、依存先であるプラットフォームの運営会社自身が買い手になることで、このリスクを出口に転化した。依存が最も深い相手こそ、最も自然な買い手だったわけだ。
再現の条件と限界
WordPressという固有名詞を外して読むなら、①巨大プラットフォームの公式ディレクトリは、広告費ゼロで分母を作る流通網として機能する、②「無償コア+有償拡張」は、分母の大きさを収益に転化する定石である、③プラットフォームの「標準」の座を取った事業にとって、プラットフォーム運営者自身が最有力の買い手になる、という3点が残る。Microsoftエコシステムのニッチで年$1Mを作った事例が示すように、エコシステムの隙間で食う道は今も開いているが、WooThemesはその上位互換(隙間ではなく標準を取る)を成し遂げた稀な例である。
限界も明確だ。「標準の座」は各プラットフォームに実質ひとつしかなく、WooCommerceが取った2011年のWordPress×ECのような空白は、成熟したエコシステムにはもう残っていない。また、ケープタウンという立地で7年ブートストラップを続けられたのは、利益を出し続ける規律があったからで、更新率17%という弱点を抱えたまま成長を維持する経営は、資金調達で時間を買う選択肢がない分、常に綱渡りだった。南半球の3人が始めた会社が世界のECの標準を作った事実は励みになるが、その道は「テーマ屋の副産物」という偶然ではなく、後発プロジェクトへの集中投資という決断によって開かれている。
出典
- 報道WordPress専門メディアPost Statusによる買収解説(2015年5月。Re/code報道の$30M超・55人チーム・WooCommerceのシェアと売上推計・更新率17%)
- 報道The Tech Portalによる買収報道(2015年5月。$30M・累計760万DL・約20カ国55人・創業者3人)
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