月間利益1.7万円の介護情報サイトが140万円で成約。利益81ヶ月分という値付けの中身
ラッコM&Aの成約事例1,050件分析で公開された1件。月間利益17,200円・月間PV約3万・ページ数3万以上の老人ホーム情報サイトが140万円で成約した。利益倍率は約81ヶ月分で、同調査の平均17.8ヶ月分の4.6倍にあたる。
執筆: Small Start 編集部(公開情報の要約+独自分析)
2023年2月17日、サイト売買プラットフォームを運営するラッコ株式会社が、自社サービス「ラッコM&A」の成約事例1,050件を分析したデータを公開した。そのなかに、数字の並びだけを見ると説明のつかない1件が含まれている。老人ホーム・介護施設の情報サイトが、月間利益17,200円で140万円の値を付けた事例である。
成約データと、同じ調査が示す相場
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 成約価格 | 140万円 |
| 月間利益 | 17,200円 |
| 月間PV | 約30,000 |
| ページ数 | 30,000以上 |
| 利益倍率(成約価格÷月間利益) | 約81ヶ月分 |
| ジャンル | 老人ホーム・介護施設情報 |
| ラッコによる評価コメント | 「圧倒的なコンテンツ量」「高齢化社会で需要増」 |
同じ調査が示す市場全体の相場は、これと桁が違う。
| 区分 | 件数 | 相場 |
|---|---|---|
| 月間利益1万円以上 | 434件 | 平均17.8ヶ月分 |
| 月間利益1円〜1万円未満 | 378件 | 平均成約価格 195,731円 |
| 月間利益0円以下 | 238件 | 平均成約価格 139,985円 |
倍率の分布も細かく開示されている。12〜24ヶ月分が約40%、6〜12ヶ月未満が28.8%、24ヶ月以上が21.9%、6ヶ月未満が8.5%。「利益2年分以内」で約8割、3年分以内で93%が収まる。介護情報サイトの81ヶ月分(6年9ヶ月分)は、残り7%のさらに外側にある。
月間利益17,200円に平均倍率17.8を掛けると306,160円。相場どおりなら30万円で決着していたはずのサイトが、その4.6倍で成約した。差額の約109万円が何に対して支払われたのか。それがこの事例の中身である。
決定打は、評価軸が「利益」から「在庫」へ切り替わったこと
この案件に劇的な転機はない。運営者が何かを仕掛けて利益を伸ばしたわけでもなく、月間利益は最後まで1.7万円台である。値段を跳ね上げたのは運営努力ではなく、買い手の評価軸そのものが利益から離れたことだ。
その手がかりが、月間PVとページ数の比率にある。PVが約3万、ページ数が3万以上。1ページあたり月1PVという計算になり、大半のページはほとんど読まれていない。記事型のブログでは考えにくい比率で、施設単位で網羅する台帳型のサイト構造がうかがえる。読まれていないページに価値が付いたということは、買い手は「今のアクセス」を買っていない。
成約価格を割ると、1ページあたり約47円。同調査が示す月間利益1万円未満のサイトの記事単価2,370.8円と比べれば50分の1以下である(区分が異なるため厳密な比較ではないが、桁の差は明らかだ)。買い手は1ページの質に払っていない。3万ページが束になったときにだけ生まれる網羅性に払っている。
なぜ網羅性に値が付くのか。介護施設の検索需要は「地域名+老人ホーム」という細かいクエリの塊で構成される。1件あたりの検索ボリュームは小さいが、全国の施設を埋めれば検索面の総面積は巨大になる。そして後発が同じ面積を確保するには、3万ページ分の制作コストと、Googleに評価されるまでの時間の両方が要る。買い手にとって140万円は「自前で3万ページを作る費用」との比較で判断された金額であり、1ページ47円で網羅型データベースを丸ごと引き継げるなら安い、という計算が成り立つ。
YMYLという減点を押し返したもの
見落とせないのは、ラッコが同じ調査でマイナス評価の要因として「YMYLジャンル(医療・金融・法律)」を明記している点だ。高齢者の住まいと介護に関わるこのサイトは、YMYLの周縁にある。それでも81倍が付いた。
押し返した要因として調査のプラス評価リストと突き合わせられるのは二つある。ひとつは「ニッチで専門性が高い」こと。もうひとつは属人性の低さである。ラッコはマイナス要因に「属人性が高い(外注化不可)」を挙げているが、施設情報の網羅型サイトは著者個人の体験談に依存しない。運営者が入れ替わっても、掲載データと構造がそのまま機能する。M&A市場が最終的に買っているのは「引き継いだ後も同じように回るか」であり、この一点でYMYLの減点を上回ったと読むのが自然だ。
同じ調査に並ぶ他の成約事例も、同じ線で説明できる。
| サイト | 成約価格 | 月間利益 | 月間PV | 倍率 |
|---|---|---|---|---|
| コーヒーマシン特化(運営7年・YouTube付) | 96万円 | 44,000円 | 9,900 | 約21.8 |
| 食品・ダイエット情報(記事200以上) | 60万円 | 20,000円 | 110,000 | 約30 |
| 雑学特化(運営7年) | 50万円 | 15,000円 | 8,600 | 約33.3 |
| 動画編集スクール比較 | 25万円 | 15,000円 | 4,500 | 約16.7 |
| 害虫駆除 | 19万円 | 約10,000円 | 800 | 約19 |
| 筋トレサプリ・トレーニング情報 | 12万円 | 10,000円 | 2,000 | 約12 |
PVが最大の食品・ダイエット(11万PV)の倍率は30で、PVが8,600しかない雑学特化の33.3より低い。PVの多さは倍率をほとんど決めていない。倍率が相場を超えた案件に共通するのは、運営歴7年、YouTubeチャンネル、3万ページ、1年を通じた収益の安定といった、時間でしか買えない要素を持っていることだ。雑学特化については「数年間更新が停止していてもアクセスの低下が緩やか」という点が評価されたと明記されている。売買市場が値付けしているのは、放置耐性である。
効かない構造と、この値付けが崩れる条件
同じ調査はマイナス評価の要因も列挙している。ブラックハットSEO、YMYL、属人性の高さ、キュレーション系・自動生成記事、そしてトレンド・速報系だ。最後の二つはこの案件と紙一重の位置にある。3万ページという規模は、作り方次第で「自動生成の水増し」と判定されうる。この案件が評価されたのは、量が実データの網羅として意味を持っていたからだと考えられるが、原典は制作方法を明かしていない。量そのものが価値なのではなく、量が検索需要と一対一で対応しているときにだけ価値になる、という区別は保っておく必要がある。
買い手側のリスクも明確だ。月間利益1.7万円で140万円を払えば、単純回収に6年9ヶ月かかる。介護施設検索の需要が続き、かつ検索エンジンの評価が維持される前提が崩れれば、この値付けは成立しない。ラッコが「高齢化社会で需要増」を評価理由に挙げているとおり、この140万円はジャンルの将来需要に対する賭けを含んでいる。
そして開示されていないことも多い。この案件の運営歴、収益の内訳、成約までの日数、買い手の属性はいずれも公開されていない。分かるのは価格・利益・PV・ページ数と、ラッコの評価コメントだけである。
どこまで真似できるか
再現できるのは考え方のほうだ。利益が月1万円台でも、ロングテールを網羅した構造と放置耐性があれば資産として値が付く。これは月商を追う発想とは別の出口である。属人性を排し、運営者が変わっても回る形にしておくことは、売却を考えていなくても選択肢を増やす。
再現できないものもはっきりしている。3万ページは短期間では作れず、時間そのものが評価対象になっている。高齢化という追い風はジャンル選択の結果であって、努力で作れるものではない。そして81倍は1,050件のなかの外れ値であり、期待値として置くべきは12〜24ヶ月分という分布の中心である。
なお同調査は「9割の案件が掲載から24時間以内に最初の交渉申込が発生する」とも報告している。値付けが妥当かどうかは、市場が一日で判定する。
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出典
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